月のうた(9)
竹山広の「月の夜の一対の椅子」の歌の鑑賞は、以下のようにしたい。
月光の下に、かつて妻とふたりで腰かけた二脚の椅子が置かれている。妻に先立たれた作者は、魂の抜け殻のように、つまり死者に等しい存在として、一つの椅子に座っているところを想像したのである。言いようのな寂しさを表現している。
雨あとの雲のみだれをおしわたり月すさまじき円形となる
竹山 広
月の夜の一対の椅子妻去りしのち壮年の死者を座らす
竹山 広
われ一人夜半に目覚めて朧なる松の間の月をあふぎをりたり
前川佐美雄
刃のやうな月に照らされ酔顔の夜街の辻にひとを置きゆく
前川佐重郎
音たててふりたる雨のやみし夜半さやけき月が冬霞てらす
結城哀草果
月にゆく船の来らば君等乗れ我は地上に年をかぞへむ
土屋文明