天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

海のうた(6)

荒海

(2017年5月4日のブログからの続き)
一首目の葛原妙子の歌はどう読めばよいのだろう。彼女の歌は、おおむねこのように破調であることが多い。短歌のリズムに無理に納めようとすると意味が取りにくくなる。言葉の意味の素直な続きに従って切れを入れると良さそう。「薄命ならざる・われ遠くきて・荒海の・微光をうつす・コムパクト」。この歌からは気丈な女性のイメージが彷彿とする。


  薄命ならざるわれ遠くきて荒海の微光をうつすコムパクト
                     葛原妙子
  帰らむか樟のはやしの中の道しばらく行けばまた海が見ゆ
                     松村英一
  海の岩穿ちし道もここに終り棄民のごとくくらす人々
                     北沢郁子
  海中に入りゆく石の階ありて夏の旅つひの行方しらずも
                     安永蕗子
  いつしかは死ぬらん人を歩ましめきょう浜砂に春の海鳴る
                     上野久雄
  いたづらに光陰をわたることなかれ海ゆかば海にたつ冬の虹
                     原田禹雄
  波立ちてあらぶる暗き海の上に天をまたぎて立つ蒼き雲
                     来嶋靖生