海のうた(7)
一首目の袰(ほろ)月(つき)とは、青森県東津軽郡今別町袰月のことであろう。晴れた日には、竜飛崎、下北半島また遠く北海道を臨むことができる。二首目には年上の女性が青年に抱く恋情を感じる。三首目は、長い人生を経て来た人に固有の感性と思われる。最後の歌は、海の把握の仕方として個性的。
袰(ほろ)月(つき)のぬばたまふかき海の青びび びびと
ゆくとんぼ千匹 日高尭子
暮れゆける海よりさびしき表情に青年秋の帆を手繰りゐる
水谷すみ子
二人よりは一人見る海一人より亡きものと見る海こそよけれ
蒔田さくら子
海よりの風に幾たび穂のなびく茅花(つばな)は白き午後の輝き
川崎勝信
朝明けてまだしづかなる空と海穂にいづる稲のうへに見えゐる
上月昭雄
海蝕のためえぐられし岩のうつろ波寄するたび虚しき音たつ
米田憲三
哀しみの原型がある 全円の水平線の蒼き輪郭
岡 智江