死を詠む(5)
うたがはず死ぬものはよし悲しみて踏絵に立ちしかぎりなき生
近藤芳美
死にて行く母を見て来し吾が妻か夜明けに帰り吾が名をば呼ぶ
近藤芳美
流血の後なおつづく集会にひとりの死の意味ゐいまだ知るなし
近藤芳美
地階の窓べにも流血あり追ひ撲たれ墜され死なざりしや昨夜(よべ)の学生
窪田章一郎
あはれまれ生きじと言はしきどつしりとさびしげもなく死にたまひたり
窪田章一郎
耳裂きてかへりし猫のよこたはる雪のごとくに苦しまず死ね
葛原妙子
死は絶えて忌むべきものにあらざるも 死の悪臭は忌むにあまるべし
葛原妙子
近藤の三首目と窪田の一首目は、かつての学生運動に関わる情景であろうか。また近藤、窪田の二首目は、相通じる話になりそうでもある。葛原妙子の死にゆく猫の歌や二首目は、非情にも感じられるが、誰しもにありそうな感情か。