死を詠む(4)
なにか言ひたかりつらむその言(こと)も言へなくなりて汝(なれ)は
死にしか 斎藤茂吉
いのち死にしのちのしづけさを願はむか印度のうみにたなびける雲
斎藤茂吉
のど赤き玄鳥(つばくらめ)ふたつ屋梁(はり)にゐてたらちねの母は
死にたまふなり 斎藤茂吉
死にければ人は居らぬを過ちて我れは呼びけり十年(ととせ)呼びし名を
窪田空穂
われに後(おく)れあとより死なむ妻と思へさびしからむと心にのこる
窪田空穂
このままに死なむといひし人はいま言葉すくなに帰り行きけり
前田夕暮
わが死にしのちの静けさ斯(かか)る日にかく頬白鳥(ほほじろ)の
啼きつづくらむ 若山牧水
死にてゆく人のあるにもかかはらず事なく山の聳(そばだ)てるかな
尾上柴舟
茂吉の一首目、空穂の二首目 ともに哀切! 自分に引き付けて読む読者は、涙を禁じ得ないだろう。前田夕暮の歌に出てくる人はどのような境遇だったのだろう、夕暮を恋い慕っていたのだろうか。人間の死と関わりなく残る自然や世界に思いをはせる歌もある。茂吉の二首目や牧水、柴舟の例である。