死を詠む(20)
いとこ死にまたいとこ死に真夜中の廊下廊下に歯をみがく音
渡辺松男
一のわれ死ぬとき万のわれが死に大むかしからああうろこ雲
渡辺松男
ひとの死ぬるは明るいことかもしれないと郭公が鳴く樹の天辺で
渡辺松男
さんさんと降る月光を雪ならむといえばよろこびき死の二日前
菊池良子
死に近きうつらうつらのまなうらにやさしかりけむ白き帆ばしら
菊池良子
死のきはに極まるらしき魂の密度といふを恟(おそ)れつつおもう
増谷龍三
死はひとり思うべきもの霙(みぞれ)ふる庭に冴えたる山茶花の花
高瀬隆和
死の側の水田のひかりわが刻のすぎゆくさまを月に見られて
林 和清
渡辺松男の歌は三首とも取り合わせである。一首目は情景が分かりにくい。いとこやまたいとこの霊がそれぞれの家の廊下で歯を磨いているのだろうか。二首目は上句が何を意味するのか分からない。下句にヒントがあるわけでもなさそう。三首目は一番分かりやすい。菊池良子の二首は、同じ死にゆく人を詠んでいるようにも理解できる。その人にとっては白が救いだった、と作者は感じたのだ。増谷龍三の歌は、読者にも恐れを感じさせる。「魂の密度」が不気味。林 和清は、月光に照らされる水田を眺めて感じたことを詠ったのだろう。