死を詠む(23)
陸橋を揺り過ぐる夜の汽車幾つ死にたくもなく我の佇む
明石海人
死へむかふ空白(うつろ)の舟にただよへるゆめよりほかのわれを思へよ
山中智恵子
〈死〉の華のきらめきませば一本の呪木となりて血は駆けりいむ
児玉喜子
息つめてわれはおもへる鳥といへどさざなみのごと死のわたるとき
小池 光
藁のようにではない震えながらに死んでゆく冬の落首の壁を思いき
福島泰樹
死の直前とはいつからか 前の夜はぬくもりありき祖父の手の甲
大松達知
てらてらと椿の葉(は)群(むら)輝きてあつきこの午後ひと死にゆくか
鵜飼康東
深きいろに昏るるみずうみ青年の死は口承に美化されて来し
伊吹 純
明石海人は陸橋を渡る汽車を見てもっと生きたい、と思っている。25歳でハンセン病を発症。妻子と別れ療養地を転々。最後に岡山県の小島に建設された「長島愛生園」に隔離収容された。わずか37年の生涯であった。山中智恵子も死を考えたくないと。小池 光は群れなして空を行く鳥たちもいずれ死ぬということを、下句の詩的表現にした。福島泰樹の歌で、壁に書いてあった落首とは、上句なのであろうか、不明。大松、鵜飼、伊吹たちは、他人の死を詠んでいる。