死を詠む(24)
母死にしかかるときにも飯を食み夜となれば眠るまたなく悲し
安立スハル
思ひがけぬやさしきことを吾に言ひし彼の人は死ぬ遠からず死ぬ
安立スハル
死について語るともなく語りつつ異なる桜観てゐる老姉妹
築地正子
死のまぎわを例えば断崖と思うときいつなりしかな母は苦しまず
鎌田弘子
先に死ぬが勝といふ妻さもあらむ歌のある身は勝を選ばず
千代國一
死に近き人をいつはり慰めし言葉のいくつ罪負ふごとし
市川定子
これほどの隔絶はなし死と云ふは伝はらぬ思ひ返らぬ言葉
羽生冨美子
死んでゆく感じといふを告げむとす舌とつとつと姉なるわれに
阿木津 英
安立スハルの一首目は、母が死んだという時にも自分は食事をとり眠るという生理を悲しんでいる。築地正子の歌は、老いた姉妹が桜の下でそれとなく死について語っている情景。千代國一は妻よりも先に死にたくない、という。阿木津英は、死にゆく弟か妹から、死の感じを聞いているのだ。なんとも凄まじく悲しい。