天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

幻想の父(3/12)

歌集『献身』

■次は父の行状に関わる歌。実の父・欽三郎は近江商人であり、酒と女で放蕩の限りを尽くしたという伝説がある。
 影繪芝居ドン・キホーテの活躍を父の頭(づ)がぬきんでて邪魔する
                      『驟雨修辞学』
父が子の前にいて一緒に影絵芝居を見ている。
ドン・キホーテの活躍を、父の大きな頭が邪魔になってよく見えない。微笑ましい情景。
 父はむかしたれの少年、浴室に伏して海驢(あしか)のごと耳洗ふ
                       『水銀傳説』
父は少年の頃、誰かの稚児さんだったのでは?父が浴室で屈み込んで耳を洗うアシカのような姿から、ふっと男色を想像した。
 超現實派宣言 父はおろおろと四十路の坂に薔薇提げて立つ
                         『歌人
実の父は、邦雄が生まれて四ヶ月後に四十二歳の若さで亡くなったのだが、晩年の父に現実を無視した言動があったことを想わせる。
 唐詩選そらんじつくしゐし父の千鳥足なつかしききさらぎ
                         『献身』
酒に酔った父が唐詩を吟じつつ如月の空の下を千鳥足で歩いている風景。如月になるとなつかしく思い出す、という。イ音が響く。