天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

原爆の記憶(6/9)

原爆慰霊碑

  裁かるるものは誰かと崩れつつ原爆ドームは烈日に立つ
                    田中 要
  胸内を深く突き刺し抜きあへぬ棘の痛みよ原爆ドーム
                    宮坂和子
  眸(まみ)しばし力うしなう 洞ふかき原爆ドームに鳥入るを見て
                    江戸 雪
  写真屋が笑えと言いて笑わざる顔一つあり原爆碑の前
                    橋本喜典
  爆心地を究むと引きし幾十の線の交叉鋭(と)し図表のうへに
                    田谷 鋭
  爆心地は彼の日も斯かる酷暑とぞ拾ふ小石は手の平を焼く
                    吉弘藤枝
  陽炎のもえたつ彼方被爆せしヒロシマの電車せりあがりくる
                    三原豪之


田中要は、原爆を投下し数十万人の命を奪ったことの責任を考えているようだ。だが戦争における勝者が用いた手段を、裁判によって責任を問えるとは思えない。原爆禁止条約に全世界が賛成する時代が待たれる。
橋本喜典の歌の「写真屋が笑えと言いて」には、違和感を覚える。「笑わざる顔」の人は、それを感じていたのだ。三原豪之の歌の結句は、実際の光景として迫力あり。田谷鋭の歌は、日本側の行動を示している。周辺の被害状況から、原爆の威力を推測しようとしたのだろうか。