心を詠む(18/20)
完了の助動詞ひとつゆくりなく君がこころのおくがを見せぬ
島津忠夫
*「ゆくりなく」は、思いがけなく、突然に の意味。古典文法で完了の助動詞といえば、「つ ぬ たり り」であるが、この歌ではどれを指すのであろう。どれでも良いか。なお「おくが」とは、「奥処」と書き、奥深い所を意味する。
カッターナイフの刃先を曲げて折りにけりこころの底は人に語るな
米口 寛
*カッターナイフは、交換可能な刃を持つ刃物。この歌のように、交換する代わりに刃先を折って使う形式のものもある。
しずかなる夢のまにまに折りたたむこころは紙の鶴かもしれぬ
佐伯裕子
*散文にすれば、「こころ」が先頭にくる構造であろう。ある時の心を指していると思われる。
苑にして掘り返されたる木の根見ゆわが触れがたき心をあばき
市野千鶴子
*上句の情景を見て、作者は、苑を掘り返した主の心の状態を想像しようとしたのであろう。
さだまらぬ心もつとき逢ひにゆく月下の海へ無月の海へ
丹治久恵
少年よ 季(とき)の気配にそよぐわがこころの樅よほろぼしがたし
和嶋勝利
*「少年よ」と「こころの樅よ」と呼びかけが二か所に入っている。この二者の関係を
どう解釈するか。同一で言い換えにしたものと読みたい。
その人のものにしあれば心とはその人のもの山鳩啼けり
三浦槙子
わたくしのこころが留守になつてゐる 月光が振る鈴を見てゐて
池田はるみ
*月光下の鈴を見ていて、あまりの美しさに我を忘れたのだろう。