天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

心を詠む(19/20)

  いつさいがのろのろとして眞晝なり消費されゆくこころいちじるし

                     森岡貞香

*作者はいろいろなことに心を砕いて少し苛ついているようだ。

 

  秋ふけて炎のごとき花カンナ咲きたれば一日炎のこころ

                    尾崎左永子

*カンナの花が咲いた日は、一日中こころが浮き立つのだろう。

 

  目薬のつめたき雫したたれば心に開く菖蒲(あやめ)むらさき

                    岡部桂一郎

*目薬を差した時の快さを比喩した。

 

  よごれたるこころ火照りの過ぎゆくか大き百匁柿さがる軒下

                    岡部桂一郎

*汚らわしい思いをして火照っている時に、軒下に下がる百匁柿に出会って、少し落着いたのだろう。

 

  逃げやすき心じわじわ囲ひ込みもう少しなら追ひ込めさうだ

                     馬場昭徳

  つきつめて思う心のくらがりにあかぎれのような犀の眼ともる

                    鷲尾三枝子

*「つきつめて」から犀の眼が想像される。「あかぎれのような」とは、うまい比喩だと思う。

 

  受容とは断念ののち来るこころ雪の大地はまたく音なし

                     木畑紀子

*「またく」は、まったくに同じ。

 

  張りつめてゐたる心に降りゆきて打てばひびくか触れなば泣くか

                     今野寿美

*「打てば」と「触れなば」の対象は「張りつめてゐたる心」である。「降り」は「おり」。

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カンナ