天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

心を詠む(17/20)

  人疎(うと)むこころとなりてゐるわれの身をゆるがして鳴る虎落笛(もがりぶえ)

                      来嶋靖生

*虎落笛: 冬の激しい風が竹垣や柵などに吹きつけて発する笛のような音。

 

  底冥(くら)き井戸に刃のごと光る水こころ渇ける夜の夢に見つ

                      宮坂和子

  いにしへも火(ひ)と言ひいまも灯(ひ)と言へり光度は変れ心ともせり

                      岩田 正

*火にせよ灯にせよ、心にともる(見れば人の心をあかるくする)ものなのだ。

 

  風の秋びいどろの魚すりぬける心の内をこころの外を

                     小宮山栄子

*「びいどろの魚」を心に見たてた。

 

  或るときは鬼火のやうなる心にて不惑越えゆく一年を在り

                      島田修三

不惑: 40歳の異称(論語の「四十而不惑」から)。

 

  獅子の肝(かん)山羊の胆(たん)などもちたらば楽しかるらむ心(しん)は如何にせむ

                      内藤 明

*肝は肝臓、胆は胆嚢。 胆嚢は、胆管(胆道)によって肝臓と十二指腸に接続している。心は何の心臓がよいだろうか、と問いかけているようだ。

 

  水底に目ひらく椿 こころとはかつてこころのありし痕跡

                      林 和清

*こころとは何か? と問いかけるとき、かつてこころのありし痕跡を思い出すしかないだろう。

 

  身ひとつに三面六臂の阿修羅こそいまだわが持つ謀叛のこころ

                      和田親子

*阿修羅: 戦闘を好み,帝釈天と争う悪神であり、また仏教擁護の神として八部衆の一人。身ひとつに三面六臂,忿怒の相を示す。

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阿修羅