野分
秋の嵐をむかしは、野分といった。野山の草木を吹き分けるほど強烈な風というまことにリアルな命名である。野分の俳句といえば、蕪村に先ず指を折る。
鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分かな 蕪村
野分して隣に遠き山家かな 会津八一
野分あと口のゆるびて睡りをり 石田波郷
野分する野辺のけしきを見わたせば心なき人あらじとぞ思ふ
千載集・藤原季通
野分せし小野の草ぶしあれはててみ山に深きさをしかの声
新古今集・寂蓮
今年はじめて、関東直撃の台風がやってきた。東京勤めの身には、朝の東海道線が不通で休みにせざるを得ない。
たぶの樹や嵐に負けぬ力瘤
たぶの樹に小鳥宿れる野分かな
江ノ島は嵐の名残地虫鳴く
野分後も泥水しぶく山ふたつ
嵐過ぐデイゴの花の狂ひ咲き
ここにも猫あそこにも猫うづくまる江ノ島にネコ募金箱あり
台風は関東平野を抜けたれど弁天橋に泥水しぶく
白黒のまだら模様の鳩がくる野分の去りしバス停留所
[追伸] タブの古名はツママという説あり。
磯の上の都萬麻(つまま)を見れば根を延(は)へて年深からし
神さびにけり 万葉集・大伴家持