更に『雲母集』の性格を代表する歌をいくつかあげておこう。
城ヶ島の女子うららに裸となり見れば陰(ほと)出し
よく寝たるかも
天真爛漫、古代神話の世界にあるような生命感である。
桟橋にどかりと一本大鮪放り出されてありたり日暮
三崎漁港は、今でも日本有数の鮪の揚げ場であるが、大正初年の野太い情趣が出ている。
ふと見つけて有難きかもさ緑の野菜のかげの大きな片足
大きな片足という部分をクローズアップする造型感覚でシュールな情景を描いている。
森羅万象(ものなべて)寝しづみ紅きもろこしの房のみ動く
醒めにけらしも
幽玄といえる自然の景物との一体感、アニミズムが感受される。