白秋の『雲母集』(2)
先ず白秋短歌における『雲母集』の位置づけを明らかにするため、第一歌集『桐の花』と生前最後の歌集『黒檜』からもそれぞれの巻頭歌を上げてみよう。白秋の場合、巻頭歌がその歌集の性格を代表していると思えるからである。
春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外(と)の面(も)
の草に日の入る夕 『桐の花』
煌々と光りて動く山ひとつ押し傾(かたぶ)けて来る力はも
『雲母集』
照る月の冷えさだかなるあかり戸に眼は凝らしつつ盲(し)
ひてゆくなり 『黒檜』
これら三首の特質を古典和歌のアナロジーで象徴するなら、順に古今集の雅、万葉集の野趣、新古今集の幽玄に対応させられる。
春の鳥の歌は、明治四十一年七月の観潮楼歌会に出されたものだが、まことに都会的な洗練を経た繊細な歌である。照る月の歌は、白秋が終に到達した新幽玄の極地を示している。これらに対して、『雲母集』の巻頭歌は生命賛歌、光明礼賛がモチーフになっている。