天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

花火(1)

隅田川の花火

 専門業者が担当する打上花火(揚花火)や仕掛花火と家庭でもできる線香花火(こより花火)や鼠花火などの手花火と二種類がある。遠花火という言葉もあるが、これは空に揚がった花火を遠く離れて見る場合である。歴史はかなり古く、中国では宋代(960年―1279年)頃、ヨーロッパでは14世紀後半のフィレンツェで始まったとされ、わが国に伝わったのは16世紀半ばの鉄砲伝来の後という。
 以下には、大規模なものについて詠んだ歌をあげてみる。


     葛飾の闇へと靡く花火かな  菅 裸馬
     暗く暑く大群衆と花火待つ  西東三鬼


  野末なる三島の町の揚花火月夜の空に散りて消ゆなり
                   若山牧水
  ややありてふたたびもとの闇となる花火に似たる恋と
  おもひぬ             吉井 勇


  とほくにて揚ぐる花火のほのあかりたまゆら山の上に
  して消ぬ            石井直三郎


  水の上に噴きあがる火の泡だちのなかに輝く彩とめどなし
                   佐藤佐太郎
  入海の空に花火の開くとき遠き湯の岳こだまを返す
                   佐藤志満
  二尺玉次ぎて爆ぜしめ花火師はこころ充ちつつ寥しく
  あらむ              田谷 鋭


  音たかく夜空に花火うち開きわれは隈なく奪はれてゐる
                   中城ふみ子
  わが憩ふよるの暗黒のぼりつめ花火は発(ひら)く深き
  空の湾               高野公彦


  くらぐらと赤大輪の花火散り忘れむことをつよく忘れよ
                   小池 光