天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

烏賊(いか)

真鶴漁港にて

 軟体動物頭足類の総称で日本近海には90種程度が生息する。
スルメイカ:  赤褐色で背中に濃い色の線帯がある。
コウイカ:   背に舟形の甲がある。マイカスミイカとも。
モンゴウイカ: 背に眼状紋が多数ある。雷烏賊とも。
ヤリイカ:   胴が長く非常に細い。腕は短い。体色は暗褐色だが
        環境により変化。


  ならべほせる烏賊の生干しするどき香ただよふ中の裸の
  子等よ                  石榑千亦


  吊し干すヤリイカに乏しき漁を思ふ幾浜かありて南にくだる
                       吉田正俊
  ほとほとに冬に倦みにけり能登烏賊の黒づくりにまじる
  唐辛子のいろ               岡部文夫


  にんげんを笑うかのごと伸ぶる尾のつけ根に烏賊が二つ
  目をもつ                 香川 進


  いなびかり生簀に溢れ一斉に烏賊曼荼羅となりてまぶしも
                       春日真木子
  寒烏賊の腹をさぐりてぬめぬめと光れる闇をつかみ出だしぬ
                       河野裕子
  きさらぎの火もて炙れば一枚の烏賊は艶書のごと燃ゆるなれ
                       江畑 実


 ところで次の俳句はどう鑑賞するか。
     時雨るるや烏賊より出づるトビカラス  中村草田男


 先ずカラスは、漢字の中に含まれているので分る。ではトビはいづこに? 実は烏賊の嘴を含む球体部をトンビという。所謂「烏賊トンビ」であり、この部分だけを取り出して干して売っている。殊に紫烏賊のトンビは絶品という。
 外は時雨が降っている。作者はスルメを炙って嘴の周辺を食いながら、烏賊からはトビもカラスも出て来るなあ、と思い到ったのである。