天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

熟柿

横浜市東俣野の田園にて

 「じゅくし」は文字通り熟して柔らかくなった柿。枝についたまま熟した渋柿を「木ざわし」と言い、鳥が好む。


     一燈と熟柿を磨崖仏の裾        皆吉爽雨
     参禅の窓に落ちたる熟柿かな      長尾井蛙
     密教の山の彩とし柿熟るる       横山節子


 なお、似た状態の柿に「木守柿(きもりがき・こもりがき)」がある。収穫を終えた柿の木に、一個あるいは数個残しておく柿の実のこと。全部を採り尽さないで、来年の豊作を祈ってあるいは鳥たちにも分け与える、という考えからきている。俳句では、冬の季語。


  木守柿残れる枝を高くさし雪来るといふ覚悟口にす
                     大滝貞一
  枝先に柿の実ふたつ残しおく小鳥の分と青空の分
                     山本憲二郎
  木守柿ひとつ残れるともしびの怖くて逢えぬひとひとりあり
                     渡辺松男