天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

オオカミ

ニホンオオカミ(神奈川県立地球博物館

 狼はイヌ科の哺乳類。昔は山の神の使い「大神」として恐れられた。古名は「真神(まかみ)」で、枕詞が「大口の」である。日本にはエゾオオカミニホンオオカミの二種がいたが、明治時代に絶滅した。原因は、狂犬病、ジステンパーなど家畜伝染病と人間による捕獲、開発による餌の減少や生息地の分断などが考えられている。明治38年1月23日に、奈良県東吉野村鷲家口で捕獲された若いオスが確実な最後の生息情報とされる(標本として現存する)。狼信仰は現在でも、大口真神として奥秩父奥多摩など山深い地方に残っている。


  大口の真神の原に降る雪はいたくな降りそ家もあらなくに
                万葉集舎人娘子
  寺寺の女餓鬼申さく大神の男餓鬼賜りて其の子孕まむ
              古来風体抄・池田朝臣
  つねに耳を刃物のごとく立てて聴く 日本に狼の族絶えてより
                    斎藤 史
  刃のごとく狼ひとつまなかひを過ぎて行きたり性のまぼろし
                    前登志夫
  つらきことはましぐらに来る絶滅種日本狼の耳もて待ちぬ
                    青井 史
  絶滅種エゾオオカミは資料館のガラスの中に赤き舌見す
                   敷田千枝子