天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

湖のうた(8)

龍先洞

  満月の夜には甘き水となる湖をめぐりて走る列車は
                   長野華子
  真つ直ぐに湖(うみ)へと下る梅林の道幅だけの春の湖見ゆ
                   上田喜朗
  藍寝かす藍壺のごとくひそかなれ島影もなき冬のみづうみ
                  小山田信子
  みづからの水に倦みたる湖が水を捨てむと立ち上がりたり
                  西村美佐子
  みづうみは氷らむとして啼きかはす雉の声をも秘めて氷るか
                   田中 譲
  地底湖にしたたる滴かすかにて一瞬の音一劫の音
                  佐藤佐太郎
  鴨去りて空残りたりしづかなる天空はしばし青き汽水湖
                   矢澤靖江


一首目は、倒置法を使用している。列車は湖をめぐりて走る、のである。
田中譲の歌は、「みづうみは氷らむとして・・・氷るか」という続きである。
西村美佐子は暗喩を使っている。水を何と解釈するか? 簡単に捨てられるもののように読めるが。
佐藤佐太郎の歌の地底湖は、太陽の光が届かない地底で静かに水をたたえる神秘的な湖。鍾乳洞の底に水を湛えた広い池がある場合などをさす。例えば、岩手県岩泉町にある鍾乳洞。
矢澤靖江の汽水湖(きすいこ)は、海水と淡水が入り交じっている鹹湖のこと(浜名湖宍道湖など)。