天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

小池光の短歌―ユーモア(21/26)

◆擬人法
*無生物や人間以外のものが身近に感じられる効果

 

  ひつそりと生馬のやうな夕闇がゐたりポストのうしろ覗けば
                           『廃駅』
  つやつやと出でたる種三(み)つぶ干し柿の身のうちにしてやしなはれ来ぬ
                       『日々の思い出』
  あぢさゐのつゆの葉かげに瓦斯ボンベこゑなく立てり家をささへて
                          『草の庭』
  川しもに傾きふかく杭はたつ降りくる脚をせつにもとめて    
  数十羽しづかにゐたる鴉らはむろん雑談をすることもなし    
  下駄箱の引戸ひらくに長靴ほかこちらを向きて立ちあらはれつ  
  ルリカケスのすがたをば見むとぱそこんの画面に呼びてをり昼つ方 
                           『静物
  学校の木の階段はつやつやと息づきゐたりくだる足来(きた)る      
  つんつんと黒松苗木ゆれゆれつせまる雨脚(うきやく)におどろきながら    
  にはたづみの水を満濃池のごとく見て蟻の斥候(ものみ)の引きかへしゆく  
  初霜はけさは降りたりほのぼのとめざむるやうに土もちあげて   
  アセチレンボンベにすがり立ちてゐる酸素ボンベも旅愁といはむ
                          『山鳩集』

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干し柿