感情を詠むー「むなし」 (2/2)
寂しめる下心さへおのづから虚しくなりて明(あか)し暮らしつ
島木赤彦
*下心: 心の奥深く思っていること。本心。
硫気噴く島の荒磯に立つ波の 白きを見れば、むなしかりけり
釈 迢空
うつうつに 心むなしくゐるわれを つくづくと思ふ。やみにけらしも
釈 迢空
*病んでしまった時の自己分析であろう。
人は縦(よ)しいかにいふとも世間(よのなか)は吾には空し子らに後(おく)れて
半田良平
*「子らに後れて」は、子供たちが作者よりも先に戦死などで亡くなったことをさす。
両(りやう)の手をひろげて何をかわが求む両の手の間(あひ)の空しきふかさ
前川佐美雄
借金をかへすひたぶるを虚しと言ふ虚しと聞きて眼をしばたたく
*ひたぶる: いちずなさま。
秋風に拡げし双手の虚しくて或ひは縛られたき我かも知れず
太陽が欲しくて父を怒らせし日よりむなしきものばかり恋ふ
春日井建
空しくて空しくてなほ無数なるものあり満開の花を仰げば
荒垣章子
この真昼心むなしさの極まるに聞こゆる聞こゆる今年のかはづ
小暮政次
笑いが哄笑となって ふとむなしさがわき だまってしまった あの日あの時
加藤克己