天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

身体の部分を詠むー脳(2/2)

  物忘れひどくなりたるわが脳を嘆けどかくてしばし生きゐん

                         佐藤志満

  半球(ヘミスフィア)子の脳葉をほつほつと照らしそめけむ<ことば>の星は

                         坂井修一

* 脳葉(のうよう): 大脳の解剖学的に区分けされた領域。目立つ脳溝を境界として、前頭葉、側頭葉、頭頂葉後頭葉、島葉、辺縁葉の六つの葉がある。

 

  なが病めば脳(なずき)をひそと取り出して流しいるような洗髪である

                         黒沼春代

  委縮してゆくのは心脳(なづき)には影ぞほのかな海馬(ヒッポカンポス)

                         今野寿美

*海馬: 「たつのおとしご」の異名だが、その形から大脳辺縁系の一部で、側脳室の近くにある部位の名称でもある。

 

  頬杖をつけば傾く脳の感じ、みづいろの朝顔いちりん泛べて

                         河野裕子

  そんなふうに殺すのならばすこやかな脳神経われの子にくださいな

                         鈴木英子

*上句が不気味な情景(海外のことか)であるが、作者の長女が自閉症の障碍児であることに関係した作品であろう。

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海馬