天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

喜怒哀楽のうた(2/4)

怒り(憤り)

  羽根(はね)蘰(かづら)今する妹がうら若み笑みみ怒(いか)りみつけし紐解く

                  万葉集・作者未詳

*羽根(はね)蘰(かづら): 成人を迎える女性が頭につける髪飾り。一首の意味は、「(はねかづらの髪飾りをつけている愛しい恋人。うら若い彼女は、微笑んだり怒ったりしてみせながら下着の紐を解いているよ。)

  つよくひく綱手と見せよ最上川その稲舟のいかりをさめて

                    山家集西行

*「最上川の稲舟の碇を上げるごとく、「否」と仰せの院のお怒りをおおさめ下さいまして、稲舟を強く引く綱手をご覧下さい(私の切なるお願いをおきき届け下さい)。」

Weblio辞書による。)

  庭石にはたと時計をなげうてる昔のわれの怒りいとしも

                      石川啄木

  いささかの怒の後のさびしかも怒ののちに物食ひをれば

                      植松寿樹

  みづからの意志にあらぬを爪のびて汚しと歎き憤りゐぬ

                     前川佐美雄

  怒りつつしごとなしきぬ老いづきて怒らざる日となりて思へば

                      木俣 修

  ひらめけるかなしみ一つ黄昏はすみやかにして忿怒(ふんぬ)短し

                      坪野哲久

  神のごと彼等死にきとたはやすく言ふ人にむきて怒湧きくる

                      岡野弘彦

  うるはしき命のかたち山に見てはてはさびしき世を怒る者

                     窪田章一郎

  わが怒りこれくらいなり五百円の湯呑を床(ゆか)に打ちつけて割る

                      安田章生

  心頭に発せしのちの爽やかさ怒りというも透きとおるなり

                      長澤ちづ

  緋の悲鳴銀の怒りの立枯れてなぜか萌えざる一角がある

                     佐佐木幸綱

  此母が怒りに寄らむすべをなみ座敷のすみに玩具(おもちや)ならす児

                      今井邦子

*すべをなみ:  どうにもしようがないので。

  論理などめちゃくちゃな汝が怒りにて裸形の怒りが顫えておりぬ

                      永田和宏

 

湯呑