天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

喜怒哀楽のうた(4/4)

楽しみ

  山県に蒔けるあを菜も吉備人(きびひと)と共にし採(つ)めば楽しくもあるか

                 古事記仁徳天皇

*山県: 山の畑。

  矢(や)釣山(つりやま)木立も見えず降りまがふ雪にさわける朝(あした)楽しも

                万葉集柿本人麻呂

*矢釣山: 奈良県高市郡明日香村八釣と桜井市高家(たいえ)との間にある山。

  新しき年の始めにかくしこそ千歳をかねて楽しきをつめ

                 古今集・作者未詳

  耳にふれ目に見ることのたのしくてむべ極楽といふにぞ有りける

                     平 忠盛

*むべ: 「うべ」に同じ。肯定する気持ちを表す。なるほど。いかにも。

  たのしみは三人(みたり)の児(こ)どもすくすくと大きくなれる姿みる時

                     橘 曙覧

  たのしみは雪ふる夜さり酒の粕糟あぶりて食うて火にあたるとき

                     橘 曙覧

  網ながら水底(みそこ)の石におさへたる鮎のうごくはたのしきろかも

                     中島哀浪

  人々の噂を好むをみな子の中に交りてしばらく愉し

                     山下陸奥

  たのしみをわかつ想ひにアカハタの出来栄よき紙面妻にも読ます

                    小名木綱夫

  海やまの蒼き涯(はた)てにまぎれ入りむなしくならばたのしからむに

                     岡野弘彦

 

矢釣山