天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

短歌人・横浜歌会

 五月二十八日、横浜女性フォーラム。題詠(餃子)と自由詠各一首。
無記名。詠草十首。
出席者=酒井英子、金沢早苗、川井怜子、秋田興一郎。詠草のみ=若林のぶ、青柳令子


A 題詠「ぎょうざ」

  夜更けひらひらファクスの吐くしろき紙ふかひれ餃子のレシピ
  つたえて
                金沢早苗
*「ひらひら」「ふかひれ」「レシピ」における「ひ」音の繰返しが取柄。
 初句七音の字あまりが効いているか?という疑問も出された。
 また、ファックスが無人の部屋に紙を吐く、という情景はしばしば
 詠まれるので、あまり感心はしない。


  フライパンに餃子焼きたりたつぷりと一日を焼くごとき思ひに
                          若林のぶ
*下句は、判りにくいが、餃子を焼くことで今日一日が充実したという
 ことであろう。


  どちらかと言えばギョーザは出されれば食べる料理だ 嫌いでは
  ない
                  青柳令子
*高瀬調ながら、初句の入り方、餃子の表記など工夫してあり好感が持てる。


  具と皮のとらえどころのなきものをつつみて焼けばじき食なる餃子
                           酒井英子
*とらえどころのなきものをつつみて焼いたものが餃子だという把握が
 上手い。ただ、皮で包むわけであり、皮を包むわけでないので、途中で
 アレ?といった疑問が生じてしまう。


  均一にたたまれてゆく餃子の皮 こころ弛むも手は動きをり
                           川井怜子
*内容も情景もよく判るが、「こころ弛む」が抽象的であり弱い。
 気にならないという人もいるが。


  アフリカの子供の餓ゑを言ひ出せど箸のやまざる鱶鰭餃子
                          秋田興一郎
*高価で旨い鱶鰭餃子が出ると、皆がわれ先にと箸を出し、あっという
 間になくなってしまう。それを牽制するために、アフリカの子供の
 餓ゑを引き合いに出したという場面か。こういう形で歌に詠むのは
 賛成できない、との意見あり。


B 自由詠

  十薬は素素たる花なりあと戻りできぬ空間をしかと咲きゐて
                           若林のぶ
*十薬はもちろん空間に咲くが、「あと戻りできぬ空間」が理解
 できない、時間ならわかるが、との意見が大勢。空間といって
 いるが時空の意味であろう。


  いかにもやはらかさうな若葉のなか頒け入りて己見失ひたし
                          川井怜子
*万緑の山に頒け入るイメージを読者に持ってほしいのであろうが、
 上句の言い方では、限定された樹の中かあるいは草原なのかと
 思ってしまう。


  たはたはとホバリングせるハヤブサの眼鋭き断崖の空
                         秋田興一郎
*「たはたは」とはどんな感じか見たことがないので実感が湧かない。
 断崖の空に焦点があるが、それでよいのか、といった意見が出た。


  ニラ饅頭百個つくりし夜の夢にしろき山繭となりてよこたう
                          金沢早苗
*この文の作りでは、ニラ饅頭百個つくった夢、ともとられかねない。
 また、「山繭となりてよこたう」の主語があいまいなので、ニラ
 饅頭百個が山繭なのか、と思ってしまう。山繭は緑を帯びている
 ので、しろくない、「しろき」の替わりに「われは」としたら
 どうかといった意見。


みずあかり水蓮沼にしろき耳蒐むるごとき蕾ふくらむ
                          酒井英子
*「しろき耳蒐むるごとき」が独特の感性で魅力的。「水蓮」という
 表記はなくて「睡蓮」が正しいはず。睡蓮の蕾の形から耳を想像
 するのは、苦しい。また水蓮沼と一単語にすると寸つまりの感あり、
 沼でよいがもっとゆったり詠えないか、など。


  保険金 予想以上に給付され黒字になった 「ケガの功名」
                          青柳令子
*作者は保険金が降りるくらいの怪我をしてしまったらしい。交通事故
 に遭ったのであろうか、どんな怪我なのか知りたくなる。二ヶ所に
 一字空けがある理由が不明、上の空けは不要ではないか、など。