天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

下曽我

みかん山

 国府津から御殿場線で一駅のところに下曽我がある。最近の公共交通が大変不便になったような気がする。電車は一時間に一本程度。国府津下曽我間のバスの本数は、二時間に一本とかなり減っている。以前は気軽に出かけていたのだが。
曽我と別所の境に剣沢川(つるぎさわがわ)という小さな川が流れている。その上流、剣沢山の深い谷筋に二段の滝がかかっている。上段を鎧の滝、下段を弓張の滝という。『新編相模国風土記稿』には、鎧の滝が高さ八尺(約2・5メートル)、弓張の滝が高さ一丈五尺(約4.5メートル)と書かれているらしい。随分古くから知られていたようで、文明十八年(1486年)に、聖護院道興准后が次の歌を詠んだという。
  此頃はみさびわたれる剣沢こほりしよりぞ名は光ある


      ひよどりの声けたたまし蜜柑山
      弓張の滝水涸るる師走かな
      竹林の光さびしむ年の暮
      とりどりのすみれ花咲く遺髪塚


  裸木のケヤキの梢にあをあをと瘤なし繁るいくつ宿木
  錦秋の里山に啼く百鳥の声けたたまし何をあやぶむ
  竹林の光の奥に現るる水筋(みすぢ)かぼそき弓張の滝
  滝水の風にさゆらぐ棕櫚の葉のさびしからずや人影を見ず
  冬雲の奥より来たる飛行機が頭上に迫る弓張の滝
  梅林の剪定に余念なかりけり百鳥さはぐ下曽我の里
  梅の木の直立つ梢(うれ)にとりつきてゆらゆら揺るる
  ふくら雀は


  見上ぐるはなにか恥づかし白々と垣根に干せる大根の列
  黄葉のちりしく神社境内の尊かりけりみ祖のひかり
  下曽我二宮尊徳遺髪塚すみれ水仙かをる道の辺
  をちこちに小型トラック行き交ひて蜜柑積み出す下曽我の里
  二時間に一本のバス待ちてをり神社あかるき銀杏の落葉