天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

酸漿

鎌倉・円覚寺にて

 鬼灯とも書く。ほおずき、である。ナス科の多年草。袋状の萼に包まれた赤い果実は、小さな穴を開けて種を抜き、口に含んで吹き鳴らす。現在では、こんな風情のある遊びは見かけなくなった。


  うなゐらが植ゑしほほづきもとつ実は赤らみにたり
  秋のしるしに           伊藤左千夫
                        
  この夕べ心いらだたしふり向きてほほづき鳴らす妻
  を叱れり             結城哀草果
                        
  うしろ向きにおかっぱ髪をたらしいて星くだる夜に
  ほおずき鳴らす          川口常孝

                        

 円覚寺でも東慶寺でも境内を歩いていて、草木の蔭に酸漿の袋が赤く色づいているのを見かけた。


      洪鐘も鳴り出だすべし蝉の声     
      酸漿の色づく朝の坐禅かな
      ほととぎす咲きてさみしき東慶寺
   

  弓矢かまへ床に立ちたる老人の一瞬を待つ道場の朝
  園児らが運動会の練習の声はりあぐる朝 円覚寺
  山門の奥に鎮もる舎利殿を描かむとする朝の女は
  紫陽花ののこれる谷戸の暁闇にほのかに笑まふ聖観世音
  大いなる黒き揚羽のあらはれて墓地をめぐりぬ谷戸東慶寺