天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

荷風の俳句(2)

 前回は分かりやすい作品をあげたが、今回は分かりにくい句の例をあげる。

    羽子板や裏絵さびしき夜の梅
    *夜の梅が裏絵になっていたということらしいが、
     羽子板にしては異様な感じがする。さびしい、とは
     思えない。


    春の船名所ゆびさすきせる哉
    *わかるが、名所を指すのはきせるなので、「ゆびさす」
     では、イメージがダブル。一茶の句
     「大根引大根で道を教へけり」 なら明快。


    門の灯や昼もそのまま糸柳
    *そのままなのは、糸柳ではなく門の灯であるはず。
     つまり昼でも門灯がついている情景であろう。
     初五の「や」で切れ、二句目で切れているマズイ構造。
     「や」ではなく「の」とすれば救われる。


    御家人の傘張る門や桐の花
    *将軍譜代の武士が御家人なので、浪人と違い傘張り内職
     をするわけではない。「傘張る門」がわからない。
     門に傘を広げて干しているということか。


    一ツ目の橋や墨絵のほととぎす
    *全く理解できない。墨絵にほととぎすが描かれている
     ことはわかるが、一ツ目の橋との関係が不明。


    座布団も綿ばかりなる師走哉
    *座布団は、綿を布で包んだもの。これは、包んだ布が
     無くなっている状態なのか?布が破れて綿がはみ出して
     いるというなら分かるのだが。


    行年や隣うらやむ人の声
    *隣はうらやましいなあ、という人の声が聞こえた。
     隣とは作者荷風のことで、その生活を荷風の隣に住む
     人がうらやんでいる。と鑑賞したいところだが、
     どうも隣が不安定。