海釣り
川での鮎釣りを詠ったので、海の釣りも短歌にしようと、江ノ島に出掛けた.。いつも行っているところなので、まことに手軽な話である。釣舟に乗ってみるのよいが、その趣味はない。磯釣りを眺めるのみ。辺津宮には、依然として茅の輪がおいてあり、今回は老婆がひとりくぐるのを見かけた。
くぐりては心すがしき茅の輪かな
相模湾江ノ島沖にさり気なく沿岸警備の船停る見ゆ
尾羽ふり鳶下降せる梅雨空の木末に啼ける初蝉の声
うす青き靄にかすめる断崖の水際に白き波立てる見ゆ
萱草の花咲く崖の松の木に鳶入りゆけり巣懸けるらしも
アベックが坐れるそばの岩礁に老人きたり蛸釣らむとす
いつしかに足元にくる白波のしぶきかかれる満潮の時
小魚を空に向かひて投げたれば鳶啼ききたりつかみて去れり
雀きて餌をねだれり釣人が竿引き上ぐる昼食の時
投げあぐる餌に三羽の鳶きたり爪嘴が交錯したり
小さき蚊のけがらはしきが吾を待つ海岸近き暗きトイレに
朝の釣り終へて帰り来釣舟のエンジン音のとどろきにけり
若者に小魚とりて老人が磯に教ふる三枚下ろし
大声に信号確認してゐたり小田急電車の運転席に
店先にブーケ作りてならべゐる乙女はほそき眼鏡かけたり