天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

満潮と鳥山

江ノ島の岩場にて

 若葉の風が心地よい江ノ島を、辺津宮中津宮、奥津宮と歩いた。天気予報では、温度が上昇するので熱中症に注意ということであった。以前、江ノ島熱中症になりかけたことがあったので、注意して歩いた。暑い中を歩く時は、気分的に余裕を持って無理をしないこと。
 江ノ島の奥津宮から商店街を抜け海岸側に降りて岩場の釣人を眺めた。みなサビキ釣りで、鰯が数匹づつ釣糸に連なってあがってくる。しばらく見ていると沖から岩場の方へ多くの鳥の群が舞いながら近づいてくる。下の海面近くに鰯の群がいることを示す鳥山である。ちょうど満潮の時期と重なっている。釣った鰯はまとまったところで、腹を割いて腸を抜いて捨てていた。そうした岩場の潮溜りを鳶が狙って降下してくる。


     潮風にそよぐは楽し小判草
     若葉なす銀杏の大樹むすび絵馬
     ふき上ぐる潮風涼し山ふたつ
     変な鳥と女指差す川鵜かな
     立ちて漕ぐサーフボードの河口かな


  抱つこしてとせがむ幼なを焦らしつつなるべく多く
  歩かさむとす


  今は亡き母をつれきて泊りにし岩本楼の洞窟風呂は
  検校がつまづきし石福石として祀りたり辺津宮の下
  一年中茅の輪を置きて罪穢(つみけがれ)落せとせまる
  辺津宮の庭


  銭投げて白龍王に手を合はすそののち札を洗ひて帰る
  大木の輪切を据ゑて腰掛に水琴窟を聞く中津宮
  エルニーニョなると予報の暑をしのぐ桜若葉の下の
  ベンチに


  ラベンダー越しにのぞめる灯台の最上階に人ふたり見ゆ
  奥津宮西の厠に入りければ涼しき音に龍が水吐く
  アベックが写真撮るとき龍宮の門の前なるカメラスタンド
  満ち潮のときは到れり波たかみ岩のはざまにドンと
  ひびかふ


  入れ食ひに鰯釣れたり満ち潮にのりて近づく鳥山の見ゆ
  鳥山を間近にしたり磯釣のさびきの糸に鰯つらなる
  捨てられし鰯めがけて鳶降下飛び立つ足に光る銀鱗
  高々とエンジン音をひびかせて釣り船帰る鳥山のなか
  江ノ島に棲む鳶たちが見下せり鰯釣りゐる岩礁の空
  力石亀甲石と並べおく奥津宮の柏手の音
  江ノ島の裏道ゆけば生活の道としならぶバイク、自動車
  潮風と強き日射しを避けて咲くトベラの陰の昼顔の花
  立ちて漕ぐサーフボードの七人が河口に入りてさかのぼる見ゆ
  こつこつと白き杖つく老人と携へゆけりその孫娘