天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

立秋

江ノ島にて

 八月八日の頃、暦の上で秋にはいる。今年の立秋は七日。


     秋立つは水にかも似る
     洗はれて
     思ひことごと新しくなる
             石川啄木

  秋立ちてすべなく暑き日の中にいちびの花もをさまりてゆく
                      土屋文明
  里芋の汁あつくして父と吸ふ夜目にふるるもの皆秋となる
                      馬場あき子
  武蔵野の西の仏の泣きぼくろ秋立つ朝のよろこびとせむ
                      辺見じゅん
  ボールペンのペン尖にまづ秋は来て火星人への手紙書きたし
                      荻原裕幸


江ノ島の岩場では、秋鯖が入れ食い状態で釣れるようになった。釣れると直に腸を抜いて捨てるので、鳶が上空をかすめる。ただ鳶も食傷気味のようである。


     秋鯖の入れ食ひに釣れ鳶の影
     8の字に茅の輪くぐりぬ辺津宮


  龍宮の入口といふ江ノ島の門前に食ぶ生しらす
  九頭龍や天女描きたる燈籠が路肩にともる盆の江ノ島
  江ノ島の岩場にあまた舟虫のをさなが走る盆は来たれり
  満ち潮にのりて寄せ来る秋鯖を釣りては裂けり島の岩場に
  たひらなる岩場にまろき穴あまた小石が掘りし潮の満ち干に
  龍恋の鐘のかたへの金網にぎつしりかかるあまた錠前
  金網にかけて去りにしカップルのその後は知らず錆びし錠前
  咲き満ちてこの世見しかば時いたり槿の花は閉ぢてちるなり
  8の字に茅の輪くぐりて辺津宮の鏡に祈る猛暑の無事を
  藤沢の遊行通りの街路樹は風にふかれてちる百日紅