天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

雨あがりの鎌倉

ジンジャーの花(ぼたもち寺にて)

 明け方まで降っていた雨が止んだので鎌倉に出かけた。大巧寺、妙本寺、ぼたもち寺、八雲神社安国論寺長勝寺 とめぐった。わが定番の散策コースである。


      ぎんなんの踏まれて臭ふ蛇苦止堂
      祀らるる身投げの井戸や蔦紅葉
      秋風や「寂」一文字の谷戸の墓
      妙法の声朗々と谷戸の秋

      
  仙覚が万葉集の研究の偉業遂げにし僧堂の跡
  ありし日の中也秀雄が語らひし寺の縁側猫がねそべる
  茗荷ではなくジンジャーと書かれたりぼたもち寺に咲く白き花
  境内の垣根に沿ひて並び立つ開運厄除祈願の幟
  落葉掃く娘に惹かれふり返る雨雲去りし安国論寺
  「妙法」の二文字彫りたる墓石がをちこちに見ゆ谷戸の秋風
  風ふけば皺寄りにけり昨夜ふりて仏足石にたまる雨水
  神妙にうつむき坐る本堂に邪念を払ふ妙法の声
  軒先に銀の芒と虎を描く珈琲店はCLOSEDの札


[注1]仙覚の万葉集研究
   仙覚は鎌倉時代初期に、比企氏から出た天台宗の学問僧。
   鎌倉四代将軍・源頼経の命により万葉集諸本の校合に着手した。
   生涯を万葉集の研究に捧げたが、万葉集の校本と
   『萬葉集註釈』は、明治にいたるまで万葉集の定本となった。
   ちなみに続古今和歌集に、彼の次の歌が載っている。 
     面影のうつらぬときもなかりけり心や花の鏡なるらん
                         権律師仙覚                   
[注2]ジンジャーの花
   写真に撮ったジンジャーは、インド原産の生姜科の宿根草で、
   安政三年より前に渡来したことがわかっている。
     蟻などの居らずなりたる庭のうへジンジャーの花また
     ひとつ咲く               佐藤佐太郎