天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

運河(2)

川崎市にて

 川崎市の工場地帯には、短いながらいくつもの運河がある。京浜運河田辺運河池上運河、入江崎運河、水江運河塩浜運河千鳥運河大師運河多摩運河 など。
 京浜急行川崎駅から大師線に乗り終点で降り、羽田空港を左手にして海の方向に歩いた。しぐれてきたが、ひどくならなかったので結局多摩運河にかかる橋まで歩いた。


  運河はやふくるるごとく水たたへ高速道路の下に息づく
  大いなる建築物の林立にはなやぎにけり運河の岸辺
  頭上にも高速道路分岐して貨物積たるトラックがゆく
  交差せる運河をとほく眺めてはそぼふる雨の橋に佇む
  荷をはこぶトラックあまた見かければ心やすらぐ工場の街
  大いなる貨物積みこむタンカーに運河の水はふくらみにけり
  枯葦の運河想ひてくちづさむ「鶴見臨港鉄道」の歌
  百年に一度の不況くるといふ湾岸道路は鳥のあそび場
  寒ければ早々にひき返したり歩いてきたる道をバスにて
  細かなる英字の新聞読む人を吾はうらやむ隣の席に
  ふらつくも優先席に座らざる老人見れば腹立つバスは


京浜運河は川崎区と隣の鶴見区にまたがる。そこで土屋文明の「鶴見臨港鉄道」の一連を思う。運河に関わる歌を二首次にあげておく。

  枯葦の中に直ちに入り来り汽船は今し速力おとす
  貨物船入り来る運河のさきになほ電車の走る埋立地見ゆ


[余談]実はこのブログの原稿は、一ヶ月以上前に書いたもの。
   上のわが歌の内、「荷をはこぶトラック」が、昨日の
   産経歌壇・伊藤一彦選に取り上げられ、結句に「工場の街」
   をおいたことで一首が成功した、との批評であった。