知らざあ言って聞かせやしょう
歌舞伎の醍醐味のひとつに、かっこいい台詞(せりふ)と見得を切る所作がある。まさにかぶく装束と台詞である。泥棒の集団なのに、「白浪五人男」に人気があるのは、装束・所作と台詞のかっこよさに惹かれるからである。特に台詞は、気のきいた掛け言葉と七五調のリズムに日本人を酔わせてしまう。江ノ島・春まつりでも例年披露される。
白浪五人男(日本駄エ門、弁天小僧菊之助、忠信利平、赤星十三郎、南郷力丸)・鎌倉稲瀬川の場より、前の2人の台詞を紹介しておこう。
日本駄エ門
問われて名乗るもおこがましいが生まれは遠州浜松在
十四の頃から親に放れ、身の生業も白浪の
沖を越えたる夜稼ぎの、盗みはすれど非道はせず
人に情けを掛川の、金谷を掛けて宿々で
義賊と噂高札に廻る配符のたらい越し
危ねえその身の境界も、最早四十に人間の
定めは僅か五十年、六十余州に隠れのねえ
賊徒の張本日本駄右衛門
弁天小僧菊之助
さてその次は江ノ島の岩本院の稚児あがり
普段着慣れし振袖から、髷も島田に由比が浜
打ち込む波にしっぽりと、女に化けて美人局
油断のならぬ小娘も、小袋坂に身の破れ
悪い浮き名も龍の口
土の牢へも二度三度、段々超える鳥居数
八幡様の氏子にて、鎌倉無宿と肩書きも
島に育ってその名せえ、弁天小僧菊之助
なお、江ノ島の岩本院は、洞窟風呂で有名な現在も人気の旅館である。
しらなみ五人男をしたがへてすばな通りをくる鼓笛隊
海をくる五人男か装束の裾に描ける青海波立つ
江ノ島の鳶が見下す白浪の五人男が傘さして立つ
晴天のもとに傘さし下駄ならす白浪五人男なりけり
スピーカーの調子悪けれ見得台詞きれぎれ聞こゆ弁天橋に