素数と暗号
数学の分野で最も面白いと現在でも惹かれるのは、数論である。ピタゴラスのギリシャ時代から現代のリーマン予想まで、魅力が尽きない。一見単純に見えるフェルマーの最終定理
「3以上の自然数nについて、xのn乗 + yのn乗 = zのn乗
となる 0 でない自然数 (x, y, z) の組み合わせがない。」
が解かれたのは、1995年になってからであった(アンドリュー・ワイルズ)。
そして現代未解決の最大の難問が次のリーマン予想である。
「ゼータ関数の非自明なゼロ点は、すべて一直線上にあるはず。」
これが解かれると現在使用されている世界の暗号体系が崩壊する、というから恐ろしい。素数と暗号の現状の関係は次のようである。
・個人情報保護の技術には、巨大素数が使用されている。この素数を
発見することは、実際上不可能という事実に基づく。
・素数使用の暗号は、インターネット、軍事情報などでも使用され
ている。
・リーマン予想が解決すれば、現代の暗号世界は崩壊する。
NSAは多数の数学者を抱えて、数学理論をフォローしている。
こうした興味深い分野を歌に詠んだ歌人はまだいない。「知の詩情」開拓の先駆者である小池光にしても、今までの全7歌集を調べたが、数学関係の歌は以下の4首だけであった。
蟻潰す机上にありて数式はみなやすやすと解かれゆきたり
『バルサの翼』
かぐはしきはつなつの百合 水の辺に咲く盲目の数学者ひとり
『廃駅』
いまになほ因数分解はたのしきものぞからころりんと音がして
解けぬ 『静物』
奈良の代に渡来しきたる掛け算の九九をおもへば桃の花にほふ
『時のめぐりに』