橡とも書く。トチノキ科の落葉高木。高さは30メートルにもなる。五月から六月に若枝の先に円錐花序を出し、紅色を帯びた四弁の花を多数開く。十月ころに熟する実は裂けて、栗に似た種子を出す。これをさらせば食用になる。
橡の太樹をいま吹きとほる五月かぜ嫩葉たふとく
諸(もろ)向(む)きにけり 斎藤茂吉
とちの芽のものものしくも粘液を吐けるを愛す
坂の夕日に 鹿児島寿蔵
しづかなる若葉のひまに立房(たちぶさ)の橡の花さきて
心つつまし 佐藤佐太郎
たましひのやうやく休息(やす)むときを得て千の掌(て)の
葉を捨てし栃の樹 斎藤 史