天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

マリア像

横浜山手カトリック教会にて

 横浜の山手カトリック教会に、大理石の真っ白な全身像がある。この美しい聖母像は、明治元年(1868年)にフランスから、山手カトリック教会の前身の横浜天主堂に贈られたものであった。この天主堂は、1862年にフランスの神父さんが建てた。


  とほき彼方の壁の上にはくれなゐの衣を著たるマリア・マグダレナ
                      斎藤茂吉
     観音をマリアと伝へ露白し     長谷川櫂


 前衛歌人塚本邦雄は、藤原俊成の言をもじって、「聖書見ザルハ遺恨ノ事」と言い放ったように、イエスやマリア(聖母)をよく詠んだ。マリアについては、全部調べたわけでないが、以下のような例がある。

  聖母像ばかりならべてある美術館の出口につづく火薬庫
                     『水葬物語』
  聖母晩夏を恩寵(めぐ)ませたまへおそらくは船渠(ドツク)に
  満身創痍の母艦            『水銀伝説』
  アヴェ・マリア、人妻まりあ 八月の電柱人のにほひに灼けて
                     『緑色研究』
  憑かるる前に憑け絵のマリア青桃のかたき乳房をイエス
  乞(あた)ふ              『星餐図』

  夏霞ひとみをおほひ苦艾(にがよもぎ)かをるイエスをはらめる
  マリア                『星餐図』

  黄昏の聖母廣場(プラサ・マリア)に眠りゐる緋の郵便車の引掻き傷
                『約翰傳偽書(ヨハネでんぎしよ)』