天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

八月折々

講談社刊

 こう暑いと思いきって数学や物理学関係の本を読んで、頭の中をスッキリしたくなる。これは学生時代の夏休みに、高木貞治『解析概論』を汗だくだくで読んだ思い出が遺伝子となっているせいかもしれない。それでこの夏は『「余剰次元」と逆二乗則の破れ』という物理学の本を購入した。力の発見に焦点を当てている。ニュートンによる万有引力の発見やキャベンディッシュによる万有引力係数の計測などは、あの時代でよくも発想できた、と驚嘆してしまう。この本には最新の研究成果も紹介されていて興味は尽きない。


     湯河原の駅につくなり蝉しぐれ
     屋根にまで伸びてゴーヤの簾かな
     桜木の肌にはりつき油蝉
     蝉落ちて蟻に曳かるる山路かな
     かなかなのかなと鳴き止むクヌギかな
     草叢に下りてキチキチ草になり
     コスモスの背丈をきそふ雲の峰
     蝉の穴数へてのぼる吾妻山
     蝉落ちて大往生の節電期
     ひまはりに向きて挨拶する子かな
     子らの絵の遊行通りの盆提灯
     身持よき口開く前の柘榴かな
     みそはぎはナルシストかも沼の縁
     猛暑日や藤の実垂れて身じろがず
     死に様はみな仰向けにあぶら蝉


  一安打のみにし終る今日なればベンチに沈む西岡剛
  監視員サーフボードにまたがりて遊泳区域に目をこらしたり
  引潮の海にうかべる監視船遊泳区域を沖よりながむ
  潮風に赤くそまるや秋あかね片瀬の浜の空をにぎはす
  八月に入りて蝉鳴くこの年の天候不順とみちのくの惨
  イチローの打率今年は及ばざりレッドソックスの一番、二番に
  外野三人集まりたれどイチローのみ屈伸運動してをりさみし
  プロ野球なれば職人イチローはヒット、盗塁稼がむとする
  イチローのデザインといふ淡青のユニフォーム着る観客あはれ
  音たてて大地に落つる無患子の小さき青き実 人驚かす
  深緑に身の染まる朝蝉たちは今年かぎりの声はりあぐる
  子どもらが早苗植ゑにし里山のふれあひたんぼに稲穂垂れたり
  白鷺はわが影見ずや嘴のとどくかぎりの水面みつむる
  夕去れどまだ鳴き止まぬかなかなのはるけき声をわが床に聞く