積乱雲
近頃のニュースで、竜巻の映像とその被害の様子が生々しく報道される。上空の温度と地上の温度の差が四十度になると積乱雲の中にスーパーセルという竜巻の核が生じるという。日本の詩歌では、積乱雲は、入道雲、雲の峰、峰雲、坂東太郎、丹波太郎などといった名前でも呼ばれている。
雲の峰幾つ崩(くづれ)て月の山 芭蕉
厚餡割ればシクと音して雲の峰 中村草田男
雲の峰ありとあらゆる蝉の身に熱の発して鳴きいづるころ
与謝野晶子
大空に何も無ければ入道雲むくりむくりと湧きにけるかも
北原白秋
雲の峰まさしく戦後遠けれど母惚けて空襲の日のみ記憶す
馬場あき子
貧しさのいま霽ればれと炎天の積乱雲下をゆく乳母車
永田和宏
積乱雲の輝いてゐるさびしさがストローの先の氷にあたる
河野美砂子
暖かきトマト捥ぎをれば西空より積乱雲は静かに移動す
内野潤子
夏空にずんずん立ちあがる積乱雲嘘をつけざるその力もて
築地正子
ミサに行く道の彼方に光りつつ積乱雲立つ
神は旱(ひでり)に在り 前田 透