天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

鏡(1)

三角縁神獣鏡[国立博物館]

 穏やかな水面に映る自分の影を自分のものと認識できるのは人間だけであろうか?オランウータンなどの類人猿ではどうか?鏡がないとわれわれは自分の顔の状態を詳しく知ることは難しい。手で触ってみるしかない。鏡は姿見の道具として用いられただけでなく、宗教的な呪力を持つという考えが古くからあった。中国系とギリシャ・地中海沿岸系とに分類されるらしい。


  住吉の小集楽(をづめ)に出でて現にも己妻(おのづま)すらを
  鏡と見つも            万葉集・作者未詳


  見えもせむみもせむ人を朝ごとに起きては向ふ鏡ともがな
                       和泉式部
  われもまた鏡いだきて秋に泣くよおちし黒髪封じこせな人
                      与謝野鉄幹
  鏡とり能(あた)ふかぎりのさまざまの顔をしてみぬ泣き
  飽きし時                 石川啄木


  村祭に鏡売(うり)ゐて群れきたる娘の顔に反射させるも
                      結城哀草果
  壁の鏡にうつるやうにと薔薇の鉢をそのままむかひの
  テエブルに載す             前川佐美雄