天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

花狂い(1)

建長寺にて

 いよいよ花狂いの季節が始まった。開花宣言はされたもののなかなか咲き拡がるのが遅いので、いつ見に出かけるか、判断に迷う。手始めに北鎌倉を訪ねて、明月院建長寺浄智寺東慶寺と歩いて見た。外国人の観光客が目立った。昼頃、外国人女性がひとり、ビーフシチューで知られる去来庵に入っていったのには驚いた。もしかしたら鎌倉の住人か。
 明月院では花大根、建長寺では半僧坊参道の「楓橋夜泊」の詩碑、浄智寺のタチヒガン、東慶寺イカリソウに、それぞれ惹かれた。
 タチヒガン(立彼岸)はエドヒガン(江戸彼岸)の別名で、彼岸桜の一種である。ソメイヨシノより若干早く咲く。浄智寺の「タチヒガン」は、樹齢120年以上の古木で、 「かながわの名木百選」に入っている鎌倉市の天然記念物。
 漢詩「楓橋夜泊(ふうきょうやはく)」は、日本人ならみんな中学か高校で習って知っている。張継(750年頃、唐中期の詩人)の作。

  月落ち烏啼いて霜天に滿つ
  江楓漁火愁眠に對す
  姑蘇城外寒山
  夜半の鐘聲客船に到る

旅愁をうたった傑作であり、この地に来た後世の詩人たちが皆真似たという。


     奥庭の若葉をのぞく円窓に
     猫やなぎ楓橋夜泊の詩碑を読む
     春風や楓橋夜泊の詩碑を撮る
     ツピーツピー谷戸に鳥啼く木瓜の花
     三門の下に法話や桜咲く
     大鐘を見下ろす墓地に幤辛夷
     タチヒガンさくらの大樹力石
     力石ふたつつややか立彼岸


  いしぶみのあまた古りたる境内に楓橋夜泊の詩碑新しき
  新しき「楓橋夜泊」の詩碑見れば谷戸にひびかふうぐひす
  のこゑ


  クワガタやカブトムシなど石に彫り秋風を待つ蟲塚の庭
  力石ふたつを訪ねタチヒガン咲きたるを見て引き返したり
  東慶寺山門わきの錨草ひとりが撮れば後(あと)がみならふ