感情を詠むー「怒り」(6/6)
怒らねば忿らねばならぬ時として桜が吹雪く秋の身内を
山本 司
*「桜が吹雪く秋の身内を」とは、混乱した表現だが、つまりは乱れた家庭を
比喩しているのだ。
子を産みし日まで怒りはさかのぼりあなたはなにもしなかったと言う
吉川宏志
*奥さんの怒りは、相当蓄積しているようだ。過去のあれこれの不満が噴き出すのだ。
わたくしの怒りやまざる宵のこと西瓜の腹に指さしとほす
上村典子
*下句の動作は、まことに恐ろしい。
若人はつよく怒れと叫びつつ怒を断てる心ほほゑむ
尾上柴舟
心頭に発せしのちの爽やかさ怒りというも透きとおるなり
長澤ちづ
遂に怒りを吐いてしまひぬ苦味まで出してしまつた紅茶のやうに
小島笑子
*三句以下は、紅茶の身になって鑑賞するのだろう。
わが生にひと度は来む天をあふぎ衣の胸を裂くほどの怒り
横山未来子
*下句のような怒りが、そのうちくることを予期している。現在の怒りはそのレベル
にはない。
おほかたは食らふべきこと忘れゐてけだもののごと老いて忿りぬ
前 登志夫