天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

思想(4/5)

  酔うほどの思想は持たず僧形に若葉の朝の庭掃いている

                         大下一真

*作者は、臨済宗円覚寺派の僧侶で鎌倉瑞泉寺の住職。

 

  ことろ子奪(と)ろ。どの子もやれぬ。戦争を避くる思想は育たぬものか

                         新井貞子

  思想と信条ゆゑの差別はせずといふ仮面は今もはづすことなし

                        石井登喜夫

*現実は思想と信条ゆゑに差別されることがあるのだ。故に下句の事態となる。

 

  思想全(なべ)てつぎて潰(つひ)えきうつうつと思へば明治、大正、昭和

                         成瀬 有

  人がたをなして或る時訪ねくる思想あり初夏の闇より深く

                        馬場あき子

*訪ねてきた人物は、よほど頑固な思想の持主だったようだ。

 

  生活の浪にあらわれしなやかにそいくるものを思想と呼ばん

                         糸川雅子

  冬欅すがしく聳(た)てり思想とは骨格にして鎧ふものにあらず

                         桑原正紀

*冬欅の姿を見て思想の本質を考えている。

 

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若葉