天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

海棠の花

上:妙本寺の海棠 下:光則寺の海棠

 先の日曜日の横浜歌会で、海棠の花が話題になった。思えばまさに今が海棠にとっても花の季節である。桜に人気をとられてニュースになることは稀だが、鎌倉には海棠で有名な寺がいくつかある。さっそく妙本寺と光則寺を訪ねてみた。
 「鎌倉比企ケ谷妙本寺境内に、海棠の名木があった。
  こちらに来て、その花盛りを見て以来、私は毎年の
  お花見を缺かした事がなかったが、先年枯死した。
  ・・・・」
小林秀雄中原中也の思ひ出」の有名な書き出しであり、この海棠を中也と一緒に眺めた日のことが書かれている。現在の海棠の木は、小林が見た後に植えられたものである。
 光則寺は、瑞泉寺と並ぶ花の寺である。本堂前の海棠は、「かながわの名木100選」のひとつで、市の指定天然記念物にもなっている。


      段葛花の参道奥深き
      大寺の庇にふぶく桜かな
      海棠の花噴きあぐる古木かな
      海棠の花季に会ふ谷戸の寺
      中島の鷺が見つめる花筏
      鵜の鳥の潜けば花の波紋かな


  大寺の庇間近く海棠の花咲き満てり死霊なぐさむ
  霊前に明り絶やさぬ祖師堂の庇ま近く海棠の花
  花弁の波紋たちたり鵜の鳥の浅く潜きてすすむ池の面
  しらじらと花ちり敷ける池の面に波紋たちたり鵜の鳥浮き来
  長生きの雄の孔雀はかなしきろひとり見てゐる海棠の花