思想(3/5)
ツアラッストラに次ぐ若き思想あれ錯迷(さくめい)に苦しみし一人の鎮魂のため
竹内邦雄
*ツアラッストラ: ニーチェの主著『ツァラトゥストラはかく語りき』 (1883‐85)の略称また主人公の名。古代ペルシアの予言者ゾロアスターの言行に仮託して〈超人〉〈永劫回帰〉〈力への意志〉などの思想が語られる。(百科事典より)
思想なき声ゆえ澄みて透れるをゆうぐれひくくとりわたるなり
村木道彦
*夕暮れに鳥が鳴いて飛んでゆく情景から、上句の思いを抱いたのだろう。
思想とは<はらわた>の謂 鈍重にたたかいに発つわが日常の
水落 博
*下句の意味上の語順は、「鈍重にわが日常のたたかいに発つ」。腹をくくって戦いに臨むので、思想がはらわたと思えてくる。
泳ぎ来てプールサイドをつかまへたる輝く胸に思想などいらぬ
折れて伸ぶ木賊一群中空(ちゆうくう)の思想といふを如何に束ねむ
*木賊(とくさ): 日本では北海道から本州中部にかけての山間の湿地に自生するトクサ属の植物。地下茎があって横に伸び、地上茎を直立させる。中空で節がある。茎は触るとザラついた感じがし、引っ張ると節で抜ける。
「中空の思想」とは、内容のない宙ぶらりんの思想だろう。
容れられぬ思想もつゆゑ囚はれて果てしもあらむこの月形に
湯本恵美子
ひもじさに耐へつつ成りし思想ゆゑいまに捨て難しペンとり直す