天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

戦争を詠むー戦死

  数ならぬみにはあれどもねがはくはにしきの旗のもとに死にてん

                         平野国臣

平野国臣: 攘夷派志士として奔走し、西郷隆盛真木和泉清河八郎ら志士と親交をもち、討幕論を広めた。天誅組の挙兵に呼応する形で但馬国生野で挙兵するが失敗して捕えられた。京都所司代の六角獄舎に預けられていたが、禁門の変の際に生じた火災を口実に殺害された。

 

  目にいたく沁(し)むかとぞおもふ戦死せる兵の墓辺の白菊の花

                         吉井 勇

  戦死せる友が名ききて慌(あわただ)しく今日も出て行く吾(わ)が戦線に

                         渡辺直己

  汗こらへしづ佇つわれのめの前を抱かれて英霊すぎたまふなり

                         川田 順

  戦ひに果てしわが子も 聴けよかしー。かなしき詔旨(ミコト) くだし賜ふなり

                         釈 迢空

*「戦ひに果てしわが子」は、養子の折口春洋のこと。

 

  自爆せし敵のむくろの若かるを哀れみつつは振り返り見ず

                         宮 柊二

  戦死者ばかり革命の死者一人も無し七月、艾(もぐさ)色の墓群

                         塚本邦雄

  夜の更けの盆の踊りにひたひたと影ふえくるは戦死者の霊

                         岡野弘彦

  長かりし昭和終れど戦死せし汝(な)が妻かがまりて今日も耕す

                        多田美津子

*平成になっても昭和の敗戦の結果を残された妻たちは背負って生きてきたのだ。下句の情景がなんともあわれでやりきれない。

 

  <戦死>せる徴用船員名簿見つ 十四歳は九百五名

                          川 明

*十四歳といえば中学生。その幼さで徴用船員にされて戦死したという。この悲惨さは現代でも世界のどこかで続いている。

 

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盆の踊り