身体の部分を詠むー唇(3/4)
遊女(あそびめ)の唇(くち)のごときをあまた持ち椿は道の両がはに立つ
安田純生
挫折多き青春にして何時よりか常に曖昧母音の唇
持丸雅子
肉叢は死にはんなりとひつそりと水のくちびるを受けやしぬらむ
河野愛子
*肉叢: 「ししむら」と読み、一片の肉のかたまり、身体、肉体をさす。
はんなり: 上品で、明るくはなやかなさま。「受けやしぬらむ」は、「受けてしまったのだろうか」という意味。歌の情景の解釈が難しい。
秋の日の黒きまゆみの木の上にふわりと唇置きて来たりぬ
佐伯裕子
*この歌も具体的な解釈に困る。
くちびるは柔らかきゆえ罪深し針魚(さより)の銀の細身を好む
*下句が「罪深い」理由だろう。
畳糸つながんとして唇に糸湿すとき菜種の味す
田丸英敏
別れ話切り出すたびにふさがれていつしか貝になりしくちびる
江副壬曳子