天野 翔のうた日記

俳句はユーモアを基本に自然の機微を、短歌は宇宙の不思議と生命の哀しさを詠いたい。

糸桜

吾妻山にて

 彼岸桜の一品種の枝垂桜で、福島県三春の瀧桜、京都の祇園枝垂れなどが有名。枝垂桜を詠んだ現代短歌では、次の歌がよく話題になる。結句が秀逸。


  夕光(ゆふかげ)のなかにまぶしく花みちて
  しだれ桜は輝(かがやき)を垂る   佐藤佐太郎

                   

 神奈川県二宮の吾妻山山頂に若い糸桜が立っている。驚いたことに、前日の凄まじい嵐で周辺のおおかたの桜が散ってしまったのに、動じることなく花をつけている。


      一身に受けてかなしき花吹雪
      葉桜や目白の群の啼きうつる
      枝折れてちぎれさうなる桜かな


  鉄砲宿昨夜(きそ)の嵐にちりはてし桜の下に呆然と立つ
  花ちりし朝のひかりをまぶしめり木陰なさざる葉桜の下
  石蕗(つはぶき)の葉にひつたりと張り付ける桜の花の鱗
  なりけり


  むらさきの色もはかなく咲きにけり山のなだりの躑躅ひと群
  吾妻山中腹にして帯なせる赤きつぼみのキリシマツツジ
  電車をも止めし嵐も及ばざり朝日に匂ふ山間の花
  山頂に枝垂れて咲ける糸桜昨夜の嵐に耐へてくれなゐ
  うつし身と思へぬ姿うかびたり春のあらしに雪つみし富士
  咲きのこる花を惜しみて鳴くらしも梢飛び交ふ目白の群は
  大山の方より嵐吹きぬらむ海に向かひて伏せる菜の花
  花ちらす嵐に追はれ山くだる蝮注意の藪を横目に
  山頂にのこれる花を吹き散らす昨夜の嵐のなごりなりけり